ひさびさ、取材日記もの

quelo42005-02-16

IT Pro/◆記者の眼◆‥‥/Report ◇ソフトバンクを動かしているのは誰?・・・ちょっと刺激的なテーマでしょ。記者の意図やら準備やら、取材プロセスがよく書かれていて、私たちは参考になります。


多分、いつもこの市嶋さんという記者の人が「記者の眼」を書くときにこうした記事の意図、あたりから披露してくれていると思うのですが、例えば今回の書き出しも、


こういった激動のさなか,筆者は日経コミュニケーションの2月1日号でソフトバンク1社を取り上げる特集を執筆した。タイトルは「ソフトバンクの舞台裏??孫社長を支える9人の仕事師」。孫正義社長の言動は,連日のように各種メディアをにぎわしている。しかし,孫社長の言動だけを見ていては,ソフトバンク次の一手を知ることはできない??というのが,特集を書いた狙いである。ソフトバンクはどのように通信事業を切り盛りしているのか,どういった総合通信事業者を目指しているのか。集められる限りの情報で明らかにした。
なるほど、なるほど。さて、ではどうやってソフトバンクの全容を知るべく、取材を組んでいったのか?
最初は、NTTとソフトバンクの量的な比較。従業員数や総売上、グループ企業数など、多分四季報などを丹念に調べれば拾える数字(かな?)。その後インタビューの様子がかいま見える。

そこで,取材の結果を整理するために,取材を受けていただいたソフトバンク・グループの方の名刺や,知り得た情報を紙に書いて床に並べてみることにした。ほどなく,といっても1週間ぐらいかかったが,ソフトバンクBBを中心とした組織図ができた。
 眺めてみると,一つのことが分かった。孫社長が役員となっている会社は意外と少ない。ソフトバンクBBとヤフー,日本テレコムと携帯事業会社のBBモバイルだけらしいことが分かった。“ソフトバンク孫社長”という世間のイメージの影で,実は現場責任者への大幅な権限委譲が進んでいるのが最近のソフトバンクの実像なのだ。
 一連の取材で確認したことだが,現在のソフトバンクは,ADSLへの参入と前後して,孫社長が一本釣りで招き入れた仕事師が,舞台を回しているのである。つまり,孫社長の言動だけを見ていては,ソフトバンク次の一手は見えてこない。できあがった組織図は,それを端的に表していた。「我ながら良くできた図だ」と,その瞬間は思った。
さらに続けて、ソフトバンクはグループ企業だけでは完結していないことが、周辺企業への取材を通じて明らかになります。

 例えば,FTTHの「Yahoo! BB光」では,機器メーカーの米国と中国の拠点,日本のソフトバンクBBの“3極”で24時間体制でモデムなどの開発を進めた。また,ある代理店は数千席のコンタクト・センターからスタッフが一斉に顧客開拓の電話をかけ,他の代理店は街角でモデムを配ったりする。
 筆者は,こうした通信業界は,NTTグループに遠慮してソフトバンクとの取り引きにはあまり積極的でないのでは,と考えていた。しかし実態はそうではなかった。NTTグループと取り引きがある機器ベンダーでも「もはやソフトバンクを無視できない」(幹部)という。通信アナリストは「むしろ日参するぐらい」と同様の指摘をする。
 通信業界を取り巻く状況は大きく変わっているのである。「ソフトバンクは仕様への注文は厳しいが,現場で期限と購入価格をスパッと決めてくれる。NTTグループは誰に権限があるのか分からない場合がある」(機器メーカー幹部)との声が聞こえてくる。携帯電話は新規参入で一から大きな投資を打つため,「さらに期待度は高まるばかり」(同)だという。
こうして、ソフトバンクはNTTとはずいぶん違って、比較的小規模な組織が、それぞれ大胆な権限委譲を受け、独立的に有機的に機能し、さらに周辺企業も互恵的な関係の中でソフトバンクの力を拡大的に利用協力している、という像がよく現れていると思います。雑誌版にはさらにこの状況が詳しく描かれていることと思います。


取材意図と、ねらい、手法と結果が書かれていて、しかも相手が孫正義という大物。なかなか考えることの多い、今日の「記者の眼」です。多分、まだ詰め切れてないところもあるように思いますが、例えば、有名な「田中角栄研究」で立花隆は、政界の人間なら誰でも知っていた越山会の金の流れを、そうした利害関係者の証言なしに、周りの資料を集めまくって立証したし、今回の堤家のコクドやら西武鉄道の株の持ち合い関係も、きっと業界ではみんな知ってた話だけれど、国税が立証するには至らなかったんだろうと思います。こうした蛇のような取材能力、そうした集中力を持って取材にあたりたいものです。