世間を騒がせている「赤ちゃんポスト」の見方

quelo42007-05-07



まあまず、このビデオを見てみてください、熊本、慈恵病院の「赤ちゃんポスト」がいいの、悪いの、言う前に。(NPO法人「円ブリオ基金センター」で入手可能のようです)



私は決してプロライフの人たちの主張にすべて賛成ではない、という面もあるのですが、ことこのビデオについてはほんとにお勧めです。慈恵病院の蓮田晶一院長らがドイツでの「望まれない妊娠」についての対応を視察し、それをもとに今回の赤ちゃんポストの設置に至る経緯がよく理解できます。


このビデオで分かるドイツでの取り組みは、「不慮の」妊娠が起こり、女性がパートナーの支援を受けられない、家族にも相談できない、という場合に、どうしようもなく臨月を迎え、単独で出産するような危険を冒したり、その後その嬰児を遺棄したり、というような母子ともの生命の危険を避ける、というもの。その取り組み全体の中に、「赤ちゃんポスト」もある、ということが重要です。具体的な取り組みの柱は、1)中絶前のカウンセリング、2)匿名出産、3)養子縁組支援、で、1)は中絶を受ける女性はその前にカウンセリングを受ける義務があり、事情などを第3者と相談し、産んで養子に出すなどほかの選択肢があることも理解した上で、中絶するかどうかをあらためて選択するという制度。宗教関係者もこのカウンセリングに多数関わっているようです。2)は、いよいよ産む段になったとき、自分の名前を名乗らずに入院して出産する制度です。これがあることで、誰にも相談できず、自宅で産んで棄てる、というような事態を避けられる。3)は2)のような形で産んだあと、一定期間(ちょっと長さを忘れましたが)母親には考える期間が与えられ、そのまま養子に出すか、やはり自分で育てることを決意するか、選択します。これらはNGOベースで行われていたり行政の支援があったりさまざまなようですが、産む女性に対してはこうした期間の経済面のサポートなども当然あるわけです。
こうした文脈の中で、それでも一人で産んだり、または病院で産んでも、やはり育てられないと思った母親が、少なくとも赤ちゃんのいのちを消すことなく、生かせるために、赤ちゃんポストを利用して匿名で赤ちゃんを病院に預けることができるようにする、わけです。ポストを設置すれば、子捨てを増長する、という反対意見がよくあるようですが、ポストがあって救えるいのちがあるのなら、是非やるべきじゃないでしょうか。


実際、神奈川だけを例にとっても、先日4月19日に横浜市南区で、12日には相模原市で、乳児の遺体遺棄事件があったばかり。(毎日新聞 神奈川版 2007年4月20日)05年に横浜の3カ所の児童相談所にあった「0歳児を育てられない」という相談が250件以上あったそうで、潜在的にこうした赤ちゃんが命を落とす格率は高いし、それを避けるために、ポストのほか、上の「匿名出産」や、中絶のカウンセリングでいきなり中絶するよりも誰かに相談できることで、さらに産んだけど育てられない、というような事態を避けることができるのでは。


一番思うことは、ともかくも、現場のお医者さんや看護師さんたちが何とかして失われるいのちを助けたいと思って苦心しているものを、「モラルに反する」みたいな単純で現場知らずの物言いで干渉したり、邪魔したりするのはもってのほかじゃないでしょうか。現状に誠実に関わっている現場の知恵と努力を、陰ながら応援するのが行政の役目だと思いますし、今回熊本県が、首相をはじめ政府関係者の無責任なことばに影響されず、病院の真摯な取り組みをサポートしてよかった。願わくは、ポストに限らずその川上の方まで制度が整えられれると女性はもっと安心になる、と思います。