ビジョン→コンセプト→モデル

quelo42008-11-15




 ちょっと古いのですが、経営システム工学をやっている宮田先生の日経のエントリーから。宮田 秀明「ビジョンだけでは何も生まれない、ビジネスを支配するコンセプトの力」2007年4月20日



 まずは、ビジネスでも、国家経営でも、ひいては個人の人生でも、大きなビジョン、それを具体的な像に落とし込む前提としてのコンセプト、さらにそこから具体化されたモデル、といった概念形成が重要なんじゃないの、というお話。

■コンセプトのない経営はつまらない
 優れたコンセプトの力は大きい。IT(情報技術)の世界では、パソコンのコンセプトも、インターネットのコンセプトも、基本的には米国のものだ。これらが世界を変えている現状を考えれば、コンセプトの力は強大だと言わざるを得ない。世界に進歩をもたらすし、ビジネスを支配できるのである。
 コンセプトには色々なものがある。船やITのような大きなビジネスの話だけではない。一人ひとりの人間の生き方にも、小さな商店の経営にもコンセプトがあるだろう。言い方を変えれば、“私の信念”と表現できる。コンセプトを持つのは大切なことである。コンセプトのない人生、コンセプトのない経営はつまらないものだ。
 国家のコンセプトはどうだろう。国民にとって国の経営は最も大切だ。国の経営を正しく行うためには、国がビジョンを持って、その次にそれを実現するためのコンセプトを獲得し、モデル化して実行していかなければならない。だが、この当たり前のことを実行に移すのは簡単ではない。日本という国の要素技術、つまり個人の力は世界最強だと思うのだが、「ビジョン」「コンセプト」「モデル」を考えて、それを実行していく経営のプロセスの水準はかなり低い。政治家や行政担当者だけでなく、一人ひとりの国民が、このことをしっかり理解して行動を始めるべきだと思う。


 設計コンセプトと経営コンセプトとはどのようなものか、もう1度考えてみよう。
 例えば、携帯電話を使ったインターネットサービスの先駆けとなったNTTドコモの「iモード」。技術開発のコンセプトは「インターネットと電話通信を結合する」というものである。私が開発した水中翼船「スーパージェット」のコンセプトは「双胴船と水中翼船をハイブリッドにする」というものである。

 その上で、中でも「コンセプト」は大事なのよ、と続くのです。

■新しい分野に挑むためのコンセプトとは
 かつて米国の半導体メーカー、テキサス・インスツルメンツ(TI)は、日本メーカーに市場を奪われた「DRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)」から潔く撤退し、「すべての情報はデジタル処理できる」というコンセプトを経営の主軸に据えた。そのコンセプトを基にデジタル信号処理や、アナログ情報をデジタル化する半導体経営資源を集中して復活を遂げた。急成長する米グーグルのコンセプトも単純明瞭だ。「世界中のすべての情報をデータ化して、世界中の人が検索し利用できるようにしよう」というものだ。こうしたビジョンそのままのような単純明快なコンセプトは力がある。


 研究でも、コンセプトが大切だ。21世紀に入ってすぐの頃、私は船の研究とは全く毛色の違う「経営システム工学」という新しい研究領域に挑戦することになった。これまでもこのコラムで紹介してきたように、経営に工学的な科学手法を取り入れていこうという研究だ。研究を始めるまでには、様々なことがあったのだが、日経BP社のある編集者に『理系の経営学』(日経BP社)という、ある意味では挑戦的な本の執筆を勧められた。これは、私にとっては新しい挑戦に向けたマニフェスト本になった。
 新しい研究領域に取り組むためのビジョンは、本の題名通りである。「経営はもっと科学的論理的に行うべきである。そうして経営学を失敗学(ケース学)ではなく、成功学に高めよう」というものだ。しかし、ビジョンだけでは何もできない。新しい研究領域に挑戦するためにはコンセプトが必要である。
 経営システム工学に挑戦するに当たって、私が考えたコンセプトは次のようなものだ
(1)すべての経営の対象は、ビジネスの構成要素が形成する社会システムと考えることができる
(2)経営とは価値の連鎖を作ることである
(3)経営のテーマは全体最適である
(4)時間発展の概念を常に組み込む
(5)ITは最大限に利用する


 船舶設計をやっていた宮田先生が、経営についてITをフルに利用して合理的効率的経営を実現していこうとする試みは、こうした考えの道筋から生まれてきています。
 この「研究でも、コンセプトが大切」というくだりはその通り。人文科学の研究においても、「コンセプトの創造」が、その研究の価値を決めていくだろうなあ、というのが、功利主義者である私の感覚です。
 宮田先生の最後の決めぜりふはこうなります。「ビジョンを持ってコンセプトを創造し、新しいビジネスモデルや商品モデルをプロジェクトマネジメントで実現するという狩猟民族的な技術開発のプロセスも自分のものにしなければならない
 いかがですか? このコンセプト創造力が勝敗を分けるんだろうと容易に創造がつきまする。