統計はちゃんと見ましょうね!



今週のJMM月曜の質問は以下のようなものでした。


質問:村上龍、Q:603「経営側の88%、労働側の94%が、「成果主義」への疑問を表明したそうです。『2005年03月20日(日) 経営側の9割「問題あり」 成果主義に悩む労務担当者』。今、『成果主義』についてどう考えればいいのでしょうか?」


これは共同の記事ですが、そもそも統計の読み方が間違っている、というのが、以下、三菱証券の北野氏(三菱証券 エクィティリサーチ部チーフストラテジスト:北野一)の指摘です。いつもの通り、JMMはネットで読めないので、大きく引用すると以下のような点が主な主張です。


 まず、労務行政研究所によって実施されたアンケート調査ですが、有効回答数がかなり低いことが気になります。労使219人アンケートの内訳は、経営側97人、労働側122人ですが、調査対象は経営側が東証第一部上場企業の人事・労務担当取締役1478人、労働側は同労組委員長866人となっております。従って、有効回答率は経営側が6.6%、労働側が14.1%となります。常識的には、回答傾向にかなり偏りがあってもおかしくないでしょう。
と、まず、サンプルからの回答数の割合が低すぎる(つまり、解答しなかった人とした人の間に明らかに傾向が出てしまう)ことを指摘。さらに、

 次に、このアンケート調査の伝え方にも問題があると思います。見出しは「経営側9割『問題あり』 成果主義に悩む労務担当者」とありますが、アンケート結果を見る限り、この見出しはミス・リーディングだと思います。というのも、労務行政研究所のプレスリリース版によると、調査のポイントは次の3点です。(1)成果主義人事制度の導入割合、(2)導入企業にみる職場への波及効果、(3)自社の成果主義人事制度の問題点と評価。


 今回、見出しになった「経営側9割『問題点あり』・・・」というのは、(3)についての回答で、質問の文脈にそってより正確に言えば、自社の成果主義人事制度に、「改善点がある」と思う経営者の比率が9割ということだと思います。完全無欠な制度などあるはずがありませんから、「改善点はあるか」という意味で、「問題点はあるか」と聞かれると、9割近い回答者が「問題点あり」と答えるのはむしろ自然でしょう。


 因みに、既に導入済みの成果主義人事制度に対する評価という意味では、(2)の導入企業にみる職場への波及効果の方が参考になると思います。例えば「社員のやる気」という項目については、経営側の4.4%が「強まった・高まった」、57.4%が「どちらかといえば強まった・高まった」と肯定的に回答しております。労働側は、68.8%が「どちらともいえない」と答えておりますが、「どちらかといえば強まった・高まった」が27.5%、「どちらかといえば弱まった・低くなった」が3.8%ですから、成果主義人事制度に変えることにより、明らかに「社員のやる気」は高まったということになるでしょう。


 なお、(1)の評価項目は、前述の「社員のやる気」のほか、「部下や後輩の育成」「能力向上への意欲」「成果に対する職場のムード」「社員同士の競争意識」「仲間と協力した業務遂行」「一人ひとりが自由に意見を言い合えるムード」「仕事に対するゆとり」という8項目が用意されております。これらの項目に対する評価のうち、肯定派(強まった・高まった、どちらかといえば強まった・高まった)から、否定派(弱まった・低くなった、どちらかといえば弱まった・低くなった)を差し引いた比率がマイナスになったのは、8項目×2(経営側、労働側)=16のうち、5つだけでした。


 最も否定的な評価が多かった項目は、「仕事に対するゆとり」で、経営側の肯定派−否定派がマイナス25%、労働側の肯定派−否定派はマイナス58.8%でした。3月15日付け朝日新聞に掲載されていた世論調査によると、「ゆとり教育」を見直すことに賛成の人が78%にのぼるとありましたが、大人とは誠に勝手なもので、自分たちには「ゆとり」を望んでも、子供には勉強してほしいということなのでしょう。


 いずれにせよ、今回の労務行政研究所のアンケートを報道するならば、回答に偏りがある危険性を断った上で、既に成果主義人事制度を導入している企業は、その職場への波及効果については概ね肯定的に評価しているが、制度の改善の余地はなお大きいと考えているというニュアンスが伝わるように書くべきではなかったかと思います。
まあ、統計をやっている人なら誰でも気付きそうなことではあるのですが、記事を書いているとだいたい自分で思いこんでいる結論をもっているので、データを見るときには、とりあえずそれを置いておいて見ないと、上みたいなことになっちゃうのかと思います。結局この共同の記者は、「成果主義なんてやったって、どうせダメに決まってる!」と思っちゃってるんでしょうね。ときに、意図的にマスコミはデータからの結論を歪曲するときもあると思いますが、これはちょっと間違っちゃったかも、という感じ。いや、我が身を振り返り、気をつけないと、と思うものです。