「異論を封じ込める」


 書きたかったのは、今週の、ふるまいさんのエントリーから。JMM<Japan Mail Media> (2006年8月31日発行)ふるまいよしこ(北京在住・フリーランスライター)『大陸の風−現地メディアに見る中国社会』第79回−「方程式と禁令文化」。
ふるまいさんが、北京で「日本の某大手メディアの北京特派員」と食事した時のお話(相変わらずネット上で読めないので、ちょっと長い引用です)。

 その頃のわたしは、ここのところ書いてきたように、これまで3ヶ月間ほど苦しめられてきた「日本人vs中国人」という単純な「公」の対立の図式から、やっと「個」を取り戻しつつある過程にあった。その夜はまずお近づきのしるしに、メディアの駐在記者である相手はともかく、どこの馬の骨とも知れないわたしが、日頃どんな媒体に何を書いているのかをご説明し、ま、そこから現地のメディア関係者同士として自然ながら「最近の日中関係」について意見交換していたわけである。


 そうするうちに同氏がわたしが香港に滞在していた期間と重なる時期に香港特派員として赴任していたことも分かり、主権返還前の香港思い出話をしているうちに、「当時、独立しようとしない香港に失望した」と語る同氏と、「そりゃ外国人の幻想を押し付けてるだけじゃないですか?」と言ったわたしは、同じ時間に同じ場所で過ごしながらも、まったく違う視点に立っていたことをお互い感じとりつつあった。


 そこからさらにまた自然に、ついその前の週に行われた小泉氏の靖国参拝に話が及び、中国は、日本は、という話をしているうちに、「まず首脳同士で会わないと拒否したのは中国なのだから、外交を拒絶しているのは中国の方です」と彼が言った。それに対して、わたしが「戦争を前提とした外交はないわけで、つまり、外交とは外国と交流を図ることが目的なのだから、自分にどんなに立派な道理があっても相手を納得させられないのであれば、その外交は失敗以外のなにものでもないでしょう?」と言った瞬間、冒頭の言葉(注:「ちょっと。なんかイヤだなぁ、こんな会話。なんだかぼくが反中を唱えているみたいじゃないですか」)が飛び出したのだった。


 明らかに相手は「自分と違う視点」にいらだっていた。もちろん、わたしだってほとんど初対面の相手と夕食をとりながらケンカしたかったわけじゃない。ただ、「反中」だのというレッテル貼りで、意見交換にくさびを打とうとした彼の態度にちょっとカチンときたので、頭に血が上りつつあった相手に対して一呼吸置き、声を抑えてこう言った。


「わたしはあなたを『反中派』などとは思っていませんよ。そんなレッテル貼りに意味がありますか? ただ、あなたとは違う視点を提供しているに過ぎないんです。わたしがあなたを『反中派』だと攻撃していると思う、または逆にあなたがわたしを『親中派』だと決めつけるのは、あなたの自由です。でも、それはわたしではなくて、あなたの側の限界、あなたの判断尺度からくるものです。つまり、それはあなたの弱点で、あなたはそれをわたしの前にさらけ出した。わたしはそうしてあなたの弱点を握ることになる。あなたにとってそんな尺度の狭いレッテル貼りで異論を封じ込めることが、本当に意義のあることなんですか?」


 今から思えば、「わたしはあなたの弱点を握った」とは、なんとまあ、好戦的な大口をたたいたもんだ、と自分でも呆れている。外交を論じているうちに内戦に転じるなんてまったく冗談じゃない。しかし、わたしはもうすでに「日本人は○○なのだ、だから絶対に△△なんだ」「中国人だって□□じゃないか、▽▽のはずはない」というような、単純に方程式化された価値判断にすっかり疲れきっており、ようやくその泥沼から抜け出しかけたところだったので、彼の「反中うんぬん」という言葉を使った被害者意識に過剰反応したのだろう。

立ってる場所が違うと、景色は違って見えます、というのが基本、だと思ってます。しかし私もけっこう、自分が思っていることと違う視点に立たれると、「何アホなこと言ってんだ」と、けっこう熱くなります。この上の、ふるまいさんの言葉は、「大手某メディア」記者氏が異論封じ込めを目指したと論駁してますが、けっこうふるまいさんの方も、記者氏の言論封殺をもたらしてますよね。


むずかしいですね。どっちも一理あるかも知れないけれども、これだと、この件に関しては二度とこの話題には触れないようにしよう、と思うだけですね。記者氏の「レッテル張り」も悪かったかも知れませんが、ふるまいさんの糾弾も対話の機会を失わせたような気がします。(端から「評論」するのは簡単ですけどね
できたら、相手がどういう立場・論拠でそう思っているか、賛成できなくても、ちゃんと知りたいと思います。ああ、この人は自分の劣等感や嫉妬心からグループアイデンティティが欲しくてナショナリスティックな反応するんだなぁ、と納得したりして。←でもこういうサイコ的納得の仕方が、また相手を怒らせたりしたこともありましたが・・・