「ユーザーの声を聞いたか」、「社内の声を聞いたか」の差


 新規事業立ち上げについて、英国でのバージン・モバイルの事例研究を紹介する興味深いコラムがありました。企業・経営/鈴木貴博「新規事業の立ち上げ方はユーザーに聞け!」2007/12/5公開

 ヴァージン・モバイルでも、事業を始めるにあたって、ターゲットとなる10〜20歳代の若者の声をヴァージンはたくさん集めた。
 そこで何が分かったのか――公開情報であるヴァージン・モバイルの2002年版パンフレットから数字を拾ってみよう。


 「君たちの65%が、固定契約料は嫌だと言っているよね」
 これが、パンフレットの最初に書かれている言葉だ。
 当時、「3強1弱」の既存の携帯電話会社はすべて25ポンドから30ポンド、日本円にして5000〜6000円の基本料金を設定していた。これは電話を掛けようが掛けまいが、加入者が支払うべき固定費である。
 10〜20歳代の若者の声を聞いたときに、これが「1番嫌だ」という反応があったというのだ。


 「君たちの60%は、契約をするということ自体、嫌だよね」ともある。英国に調査に行った際、僕は実際の契約書を見たわけではないが、インタビューで聞いた範囲では日本同様、いや英国の方が契約社会である分だけ、携帯電話加入の契約書の文章は細かいらしい。
 消費者はサインをしなければ携帯が使えないから、仕方なく契約書にサインしている。細かい契約書の文章をいちいち読んでいるわけではない。大多数のユーザーがサインしているから大丈夫だろうと判断して、自分もサインしているだけだ。しかしユーザーの声を聞いてみると、「それが嫌」だというのである。
 ヴァージン・モバイルは、実際にサービスを開始する際に、これらユーザーの声を具体的な商品に反映させた。


 こうしてヴァージン・モバイルは、契約書はない、基本料金も要らない。その上、料金体系もシンプルなサービスを始めたそうです。ほかのキャリアが細かく設定しているのに対して、ヴァージンは時間帯に関係なく1日の最初の5分は15ペンス、それ以降は5ペンスという設定に。結果、人口6000万人の英国で、事業開始から3年で400万人の加入者を集めた、とのこと。
  ヴァージンとほかのキャリアの差は、結局のところ「ユーザーの声を聞いたか」、「社内の声を聞いたか」の差にあったわけで、例えば、社内には「回線品質も重要だ」という声もあったけど、それをユーザーの声を根拠に“無視”した、のだそうです。


 メディアの事業も、どうネット上に移行していくか、大手から中小零細に至るまで、頭を悩まし続けているところですが、顧客の声を聞くのは一番ですし、逆に、上の「回線品質」のような社内のオタク的騒音に負けない(ために顧客ニーズを見える化する)ことが重要かと、思うなぁ。
 鈴木さんのまとめはこんな風。「自身を振り返ってみて、いかがだろうか。新規事業の検討を我々は会議室でやり過ぎていないだろうか。会議室での検討を悪いとはいわない。しかし、製品やサービスを買ってくれるのはユーザーである。少なくとも、会議室にはユーザーの声をしこたま持ち込んで検討会議をすべきである